トレーニングの条件

ギグレースのトレーニングは、自転車を使うのでなんとなく簡単そうに見えるかもしれません。しかし、普段の散歩や自転車の運動とは区別して、トレーニングの意識を高めてください。
犬をパートナーとして行うスポーツですから、犬にも散歩や遊びとは違うということを分かってもらうように条件づけます。ハーネスと自転車を車に積んだら、「今日は走れるぞ」といった感じでいきましょう。
そして周囲に迷惑をかけずに安全に行うことが鉄則。少しでも危険を感じる場所では練習せず、また、飼い主や犬の体調が悪いときも、練習は控えましょう。事故は思わぬ気の緩みから起こるものです。
練習場所はアスファルトやコンクリートの上は避け、土や芝生の上で。犬のつめがすり減ったり、パッドを傷めるのを防ぎます。
気温は20度以下、できれば10度以下のときに。高気温は犬の負担になり、ときには命の危険をともないます。
トレーニングの2時間くらい前に、犬に十分水分を与えてください。脱水は非常に危険なので、体全体に水分が行き渡るくらいに。
水をあまり飲まない犬なら、肉のゆで汁など好みの風味をつけたスープにします。
もし、このような条件を満たすことができなければ、訓練はすべきではありません。
私が都市部に住んでいたときも、土の道が近くにないので、30分ほど車を走らせて、練習できる場所まで行っていました。
あなたが時間をかけて犬のためにした努力は、必ずあなたに返ってくるでしょう。

 

 ギグレースの装備
ギグレースを安全に楽しむためには、適切な道具選びが大切です。
まず、自転車から。これからギグを始める人なら、普段から乗りなれた自転車でOK。ただし、座ったときに両足が地面に着くように調整します。長年ギグレースをしている私たちは、重心が低くてバランスがとりやすいBMXをよく使います。
一方、組み立て式自転車やマウンテンバイクなどは重心が高くなりがちなので、強度や転倒したときに安全であるように配慮が必要です。
次に人の防具。レース時にはヘルメット着用を義務づけています。また、ひじあて・ひざあても転ばぬ先の杖としてお薦め。見かけではなく、本当に体を守ってくれるものを身につけましょう。
ヘルメットはいろいろなものが売られていますが、自転車専門店で扱う競技用のものがやはりベストです。
転ぶと結構痛いので手袋もお薦め。また、ゴーグルは前を走る犬の砂ぼこりを防ぐのに役立ちます。
犬につけるハーネス、ライン(ロープ)は犬ぞり用でOK。
カラーは犬ぞりと同じく布製を。ハーネスは犬の体にフィットするものを選んでください。
ギグレースでは、犬ぞりのショックセーバーの代わりとなるスレッギーを取り付けます。これはラインと自転車をつなぐ安全装置。付属のベアリングとスプリングが、犬の走る方向と力に応じて伸縮し、犬への衝撃を和らげるものです。長さ30センチほどの器具で、協会では1万3800円で販売しています。
ちなみに、スレッギーとは、スレッド・ドッグ(そり犬)からとった造語です。

 

 ラインを張る
さあ、いよいよトレーニングです。ギグレースのトレーニングは、犬に自転車の前を走らせること、さらに「引く」こと、走る意欲を高め、よくコンディショニングすること。そして恐怖心があり走れない犬には、自信をつけさせてやることがポイントです。
スタート時の「ステイ」から、犬と自転車をつなぐラインを張り、引くことを教えます。犬が振り返って後戻りしたら、必ずスタート位置に戻します。ラインは常に張った状態をキープ。糸電話をピンと張って会話するように、ラインもピンと張った状態で、犬と人の意思を伝達するのです。
犬は全体重をハーネスにかけて前に出ようとします。このパワーと反対方向のベクトルが働いて、バランスがとれるのです。犬のこの力(テンション)をかけたまま、スタート。
自転車をこぐときも、ラインが緩まないように注意しましょう。
走行中、バランスが崩れて、急にラインが緩んだらどうでしょうか。犬は前のめりになります。人だったら転んでしまうかもしれません。逆にラインを引いたら?犬は走ってはいけないと思い、止まってしまいます。さらに自転車のタイヤにラインが絡まったり、ブレーキが間に合わず、犬にぶつかってしまうことも。そうなると犬はもう怖くて自転車の前を走れなくなってしまうでしょう。
ピンと張ったラインは、犬とあなたの信頼のきずななのです。

 

 引くことは楽しいこと
ギグレースのトレーニングは、犬の「走りたい」という意欲を高めることが大切。自転車を「引く」ことも、それが楽しいことでなければ、犬はやりたがりません。
時々、「犬ぞりや自転車を引かせるのは、犬がかわいそうでは」という人がいますが、とんでもない誤解。彼らは走りたくて仕方がないのです。ただし、犬の意欲をくじくようなトレーニングはいけません。
たとえばタイヤを引かせる方法。筋力がつき、よく走れるようになると思いがちですが、犬の骨格に狂いを生じさせることもあり、お勧めできません。さらにトレーニングで大事なのは、重いものでも、引き始めたら軽く感じることを教えること。ソリは滑り始めたら軽く感じますし、自転車も車輪が回転し始めたら軽くなります。だから引くことができるのです。
ちゃんと引いたらほめて、自信をつけさせてやりましょう。自信がつくと犬も楽しくなり、意欲が高まります。
次にコマンド(命令)について。これは人と犬の約束事。
人がコマンドをかけたら、犬は必ず応じなければいけないものとして教えてください。
まず「ゴー(行け)」、「ジー(右)、ハー(左)」、「ウオー(止まれ)」、「ステイ(待て)」などの意味を理解させます。そしてコマンドをかけるときは、短く、はっきりと。中には「ゴーゴゴッゴー」と叫び続けている人がいますが、これではまるで呪文。大声で叫ぶと、犬は叱られているように感じてしまいます。
犬の気持ちを考えて、効果的なトレーニングを心がけましょう。

 

 レース中のトラブル
ギグレースも犬ぞりも、マッシャー(操縦者)は一人で全ての責任を担う・・・それがこのスポーツの大きな特徴です。
犬ぞりでは一人で28頭もの犬と走るチームもいますが、レース途中にトラブルが起こったら、自分だけで解決しなければなりません。
ギグレースは、ノービスクラスではサポーターが一緒に走れますが、オープンクラスは一人。よく起こるトラブルにラインの絡みがあります。これは走っている犬の動きをよく見ていなくて、ラインが絡んでいるのに自転車をこいでしまうことが原因です。
また、パッシング(追い越し)のときも注意が必要です。ギグレースは1分おきにスタートし、タイムを競います。しかし時には前を走るチームに追いついてしまうこともあります。そこで15メートル以内に追いついたときに、優先権を要求できるというルールがあります。これは非常に緊張する場面です。追い越すチームも追い越されるチームも的確に対応しなければ、犬が止まったり、ラインが絡んだり、犬同士のケンカが始まったりするかもしれません。
コツとしては、追い越すチームはそのままスピードを上げ、右側を速やかに抜けていきます。一方、追い越されるチームは直ちに犬と自転車を止め、コースの端(ネット寄り)に寄せ、追い越すチームをかわします。犬をホールドし、右側を自分の体でブロックすればより安全です。
もし、最悪の事態になったとしても冷静に処理できるように、日ごろからトラブルを想定したトレーニングをしておきましょう。

 

 肥満犬には要注意
ドッグスポーツをするなら、飼い主は犬を選手として、またパートナーとして、体力づくりや健康管理に気を配ってやりたいものです。
既に心臓や足の関節などに病気があれば、もちろん激しい運動は無理。しかし飼い主が最も見落としがりなのは、肥満です。
犬の肥満は万病のもと。内臓に負担がかかるばかりか、直接四肢にも体重がかかってきます。日常生活には問題がなくても、走るとなると大きな負担が足にかかり、関節炎を起こすこともあるのです。
肥満のチェックは、わき腹を触って、コート(被毛)の上からろっ骨が分かればOK。走っているとき胴の肉がローリングしたり、背中の肉が波打ったりするような状態なら、トレーニングをする前にダイエットして体調を整えることです。
ダイエットや健康づくりの基本は食事管理。フードはトレーニングをした結果が筋肉になるような良質のフードをお薦めします。
スポーツ犬のフードの栄養バランスは、少なくてもタンパク質30パーセント以上、脂肪分20パーセント以上のものを。そして消化率の高いものを選びます。低いものだと、その分多く食べなければ運動のエネルギーを補うことができず、筋肉をつくるどころか痩せてしまいます。
フードの量も、運動量に応じて調整を。年中同じ量を与えられている犬がいますが、冬になると痩せているようです。良質のフードを正しく与えれば、毛づやも良くなり、活発に動くようになり、1ヶ月もすれば誰にでも犬の変化が分かるようになるでしょう。

 

 高齢犬だって走れます
ギグレースはどのように行われるのか、説明しましょう。
レースの種類は1頭引き(200メートル以上)と、2頭引き(400メートル以上)のクラスがあります。犬の足に負担の少ない土や芝生の上にあらかじめ設営したコースを利用し、タイムを競います。
1頭引きにはノービスクラスとオープンクラスがあります。ノービスは、自転車に乗るマッシャー(ドライバー)と、もう一人、サポーターが犬を呼びながら一緒に走ることができる、初心者向きのクラスです。サポーターは犬とマッシャーのスタートラインより20メートル先からスタートでき、犬にかけ声をかけたり、大好きなボールを見せたりして、前方に呼ぶのです。ちょうど犬ぞりの練習「コール法」と似ています。
タイムは3者の最後の走者がゴールした時点で計ります。
オープンクラスはある程度慣れてきたチーム向きで、サポーターはなし。ただし、ゴールの手前約20メートルに、自転車をこいではいけない「ノーペダリングゾーン」があります。これは自転車を走らせすぎて犬を追い越したり、ラインを巻き込んだりする事故を防ぐため。タイムを競うとはいえ、安全で楽しくゲームをすることが前提なのです。
ところで、ギグは自転車を使うものとはいえ、必ずしも自転車に乗らなくてもOK。マッシャーは自転車を押して走ってもいいのです。というのも、いろんな犬が参加するギグレースでは、中・小型犬もいます。そんな犬でも十分タイムを競えるようにするためには、その分マッシャーに頑張って走ってもらえば
いいわけです。
人と犬とが互いに力を合わせ、補いながら参加できるギグレースには、9歳、10歳になる高齢犬や、犬ぞりレースを引退した犬なども出場し、飼い主に喜んでもらっています。

 

 休養も大切
犬がいくら走りたがっているといっても、毎日走らせたり、朝晩トレーニングするのは考えものです。ときには休息を必要とするので、スケジュールを立て、計画的に走らせるようにしましょう。
トレーニングは、週1回程度の軽いものから始め、徐々に回数を増やしていきます。強弱をつけ週2〜3回、一日おきぐらいにトレーニングをすると、もうほとんど犬の体はできてきています。
さらに週4回となると、必ず2日連続して走るときがあります。トレーニングが増すことでストレスが高まり、結果として休養も必要な時期でもあります。
一つの例をあげましょう。大会の半月ほど前、私のチームは2日連続のトレーニングの後、私の都合や犬の休養のため、4日間休みました。しかし大会では良い結果を出すことができました。
一方、休みをとらず、ほとんど毎日トレーニングをしていたチームがありました。筋力の効果はあったようですが、精神的な原因か完走できず、おまけに犬同士でケンカを始めてしまったそうです。
これには、勝ちたいという気持ちが強すぎて、犬を追い込んでしまったことがあるようです。休養は決して無駄な時間ではないということです。
人が勝負にこだわる気持ちは犬には無縁。ギグも他のドッグスポーツも、犬と楽しむことを忘れてはいけません。